「電線会社の決算って、見てもよくわからない」という方は多いと思います。
この記事では、古河電工・住友電工・フジクラ、いわゆる電線御三家の2026年3月期の最新決算と、その発表後に株価がどう動いたかを、なるべく平易な言葉で整理します。
目的は投資判断のためではなく、「この3社、どんな違いがあるのか」「電線業界で何が起きているのか」を理解することです。
決算の数字をざっくり比較

まず、3社の最新通期決算(2026年3月期)を数字で整理します。
| 企業 | 売上高 | 前年比 | 営業利益 | 純利益 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 古河電工 | 1兆3,076億円 | +8.8% | 639億円(+35.8%) | 725億円(+117.4%) | 4.9% |
| 住友電工 | 5兆1,102億円 | +9.2% | 4,181億円(+30.4%) | 3,695億円(+90.7%) | 8.2% |
| フジクラ | 1兆1,824億円 | +20.7% | 1,887億円(+39.2%) | 1,572億円(+72.5%) | 16.0% |
3社とも増収・増益で、純利益はどの会社も大幅に伸びています。
中でも注目したいのが営業利益率(売上に対してどれくらい利益が残るかの割合)の差です。フジクラは16.0%と、他2社に比べて突出しています。
営業利益率が高いということは、「稼いだお金のうち、経費を引いた後に残る割合が大きい」ということです。フジクラが手がけるAIデータセンター向けの光ファイバー・光配線製品は、需要が集中している分、利益率の高い事業になっていると資料から読み取れます。
3社の事業の色はどう違う?

同じ「電線御三家」でも、どこで稼いでいるかはかなり違います。
古河電工は、光ファイバー・通信ケーブル、電力ケーブル、自動車部品・電池などを幅広く手がける「二刀流+α型」です。今回の決算では、AIデータセンター向けの光製品と自動車部品・電池事業の伸びが利益を押し上げました。また、政策保有株式の売却益など一時的な要因も利益に含まれていると報じられており、本業だけの改善と切り分けて見る視点も大事です。
住友電工は、売上5.1兆円と3社でダントツの規模を持つ「総合インフラ型」で、自動車・情報通信・環境エネルギー・エレクトロニクス・産業素材という5事業に分散しています。幅広い分野で需要増の恩恵を受けた一方で、今回の純利益には子会社株式売却益という一時的な要素も含まれています。
フジクラは、AIデータセンター向けの光ファイバー・光配線ソリューションに最も強みを持つ「光通信特化型」です。売上の伸び率も3社で最大の+20.7%で、利益率も突出しています。一方で、日米での大規模な設備投資計画(最大3,000億円規模)を進めており、将来への先行投資の負担も今後じわじわ出てくる可能性があります。
決算後に株価はどう動いたか?

同じ「良い決算」でも、株価の反応は3社でまったく違いました。
| 企業 | 決算前1か月の動き | 決算イベント後の動き |
|---|---|---|
| 古河電工 | ほぼ横ばい(−1.8%) | 2日間で約+34%の急騰 |
| 住友電工 | じわじわ+13%上昇 | 2日間でさらに+14%上昇 |
| フジクラ | 約+38%の急騰 | 決算翌日に−19%の急落 |
この動きの違いを、初心者向けにたとえるとこんな感じです。
- 古河電工は「決算前は静かだったが、予想以上の好決算で市場が一気に評価した」パターン。強い決算・来期計画・株主還元策の3点セットがサプライズになりました。
- 住友電工は「事前にじわじわ上昇した後、決算でさらに上乗せ」という安定型。ただし、強い決算でも上値の重さもある程度感じられる動きでした。
- フジクラは「AI期待で決算前に株価が大きく走り、決算当日に来期の利益が”微減見通し”と判明して急落」という、いわゆる「材料出尽くし」に近い典型的なパターンです。決算そのものは高水準でしたが、高すぎた期待との差がマイナスに出ました。
業界全体で何が起きているか
3社に共通する背景として、AIデータセンターの爆発的な需要拡大があります。世界中でAIを動かすためのサーバーやデータセンターが急増しており、そのための光ファイバー・電力ケーブルの需要が一気に増えています。
同時に、電気自動車(EV)の普及と自動車の電動化も電線各社を支えるトレンドです。車の電動化が進むほど、車内の電線・ケーブルの量や複雑さが増えるため、自動車向けワイヤーハーネスを持つ住友電工・古河電工に追い風が続いています。
見ておきたい注意点
良い数字が並んでいるときほど、気をつけておきたいポイントもあります。
- 一時的な要因と本業の改善を分けて見る
古河電工や住友電工では、株式売却益など「一回きりの利益」が含まれています。こうした要因を除いた「本業の稼ぐ力」がどのくらいかは、決算短信の内訳を確認する必要があります。 - 期待の高さと実績のギャップに注意
フジクラの例のように、テーマ性が強い銘柄は市場の期待が先行しやすく、決算の数字が良くても、期待を少しでも下回ると大きく動く場合があります。 - 設備投資の規模も確認を
フジクラは将来の需要に備えて最大3,000億円の設備投資計画を発表しています。増産は将来の競争力につながる一方、短期的にはコスト増の要因にもなりえます。
まとめると
- 3社とも2026年3月期の決算は増収・増益で、AIデータセンター・EV・電力インフラという長期的な成長トレンドの恩恵を受けています。
- ただし「どこで稼いでいるか」「利益率の水準」「決算の質(本業か一時要因か)」は3社でかなり異なります。
- 株価の動きは決算の数字だけでなく、「市場の事前期待とのギャップ」が大きく影響しており、フジクラの急落はその典型例でした。
決算資料は、「良かった・悪かった」だけでなく、「なぜ良かったのか」「それは続きそうか」まで読むと、業界の流れがもっとリアルに見えてきます。
注意書き
本記事は公開されている決算短信・適時開示資料および報道をもとに、企業・業界の理解を目的として作成しています。特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。投資判断はご自身で一次情報(決算短信・有価証券報告書等)を確認のうえ行ってください。
