「国策に売りなし」
投資の世界では耳にタコができるほど聞く格言だにゃ。でも、あえて言わせてほしい。 「国策は買いだが、買う場所とタイミングを間違えれば即死する」と。
あれは2021年、世界的な半導体不足で「日の丸半導体復活!」なんてニュースが踊っていた頃のこと。僕は「国がバックについているなら最強だにゃ!」と、とある半導体素材メーカーをPER30倍超えの高値で全力買い(ジャンピングキャッチ)したんだ。
結果どうなったか? シリコンサイクルの波が引いた瞬間、株価は急降下。「まだ助かる、まだ助かる」とお祈り投資を続けた挙句、含み損が30%を超えたところで恐怖に負けて狼狽売り(パニック・セル)。その数ヶ月後、その銘柄が底を打って爆上げしていくのを、指をくわえて見ていることしかできなかった……。
あの時の悔しさと、消し飛んだキャットフード代(資金)は忘れない。
だからこそ、今話題の「Rapidus(ラピダス)」については、徹底的に、冷静に、ドライに分析する必要があるんだ。「夢」だけで株を買うのはもう終わり。この記事では、Rapidusが抱える「5兆円の資金問題」や「2nmプロセスの壁」という現実的なリスクと、それでも投資家が無視できない「北海道バレー関連銘柄」の勝機について、僕の視点で解説するにゃ。
Rapidus.
「2ナノ」という未知の領域へ。
日本の半導体復権は、現実か、それとも幻想か。
目標プロセス
2nm
量産開始目標
2027年
推定必要投資額
5兆円超
失われた30年と現状
かつて1980年代、日本は世界の半導体市場の50%以上を占める圧倒的なリーダーでした。しかし、現在はシェアが10%以下に低下。Rapidusはこの流れを断ち切るための国策プロジェクトです。
KEY POINT
汎用品での敗北を教訓に、Rapidusは「次世代ロジック半導体」という高付加価値領域に特化しています。
世界半導体市場シェアの変遷
出典: 各種業界統計より推計
技術的空白の跳躍
国内で量産可能な最先端は40nm世代。Rapidusはここから一気に世界最先端の「2nm GAA」構造へ挑みます。
プロセスノードの微細化レベル (nm)
数値が小さいほど高性能 (対数イメージ)
GAA (Gate-All-Around)
電流の通り道をゲート電極が全方向から囲む新構造。電力効率と性能が劇的に向上します。IBMから技術供与を受けています。
AI・データセンター需要
2nmチップは、次世代のAIデータセンターや自動運転車において必須の「心臓部」となります。
量産へのロードマップ
Rapidus 設立
トヨタ、NTT、ソニーなど大手8社が出資し設立。北海道千歳市に拠点。
試作ライン稼働 (予定)
パイロットライン稼働。歩留まり確保と装置調整が鍵となるフェーズ。
2nm 量産開始 (目標)
大量生産体制の確立。世界中のファブレス企業からの受託製造を目指す。
株式市場への影響と恩恵企業
Rapidusが成功すれば、製造装置・素材メーカーに特需が生まれます。以下は主要な「関連銘柄」のポジショニングです。
関連銘柄ポジショニング
前工程装置で世界シェア高。EUV周辺で必須。
EUV用マスク検査装置で世界独占。
洗浄装置で世界トップ。微細化で重要度増。
Rapidus SWOT分析
Strength (強み)
- ✔ IBM (技術)・Imec (研究) との提携
- ✔ 国内の強力な装置・素材エコシステム
Weakness (弱み)
- ⚠ 最先端ロジックの量産経験の空白
- ⚠ 巨額資金調達の民間負担分が不透明
Opportunity (機会)
- ★ 生成AIによる高性能チップ需要爆発
- ★ 地政学リスクによる分散需要
Threat (脅威)
- ✖ TSMC、Samsung、Intelとの競争
- ✖ コスト競争力と歩留まりリスク
結論:期待と現実の狭間で
Rapidusの挑戦は、日本の産業構造を「素材・装置」から「設計・製造」へと引き戻すための国家的な賭けです。投資家にとっては、Rapidusそのものの動向だけでなく、それを支える日本のサプライチェーン企業の再評価が最大のチャンスとなるでしょう。
Rapidus(ラピダス)とは何か?ただの工場じゃない、「日本の生存戦略」だにゃ
まず、Rapidusが何をやろうとしているのか、ざっくり整理するにゃ。 2022年8月に設立されたこの会社、ただの民間企業じゃない。トヨタ、ソニー、NTTなど日本を代表する8社が出資し、政府が数兆円規模の補助金を突っ込む、まさに「国家プロジェクト」なんだ。
「周回遅れ」から一気にトップへ。2027年・2nm量産という狂気のタイムライン
日本の半導体工場で作れる最先端のロジック半導体は、現在40nm(ナノメートル)世代。これは例えるなら、ガラケー時代の技術だにゃ。 一方で、世界のトップを走るTSMCやSamsungは、既に3nmの量産を始めている(スマホの最新iPhoneレベル)。
Rapidusが目指しているのは、2027年までに一気に2nmの量産を開始すること。 「40nm → 2nm」へのジャンプアップは、「3世代・20年分」の技術的空白を一瞬で埋めようとする試みだ。陸上競技で言えば、市民ランナーがいきなりオリンピックの決勝で金メダルを狙うようなもの。常識的に考えれば「無謀」の一言に尽きる。
設立の裏にある「台湾有事」と「経済安全保障」のリアル
じゃあ、なんでそんな無謀なことをするのか? 答えはシンプル。「台湾有事」のリスクだにゃ。
現在、世界の最先端半導体のほとんどは台湾のTSMCが作っている。もし台湾海峡でドンパチが起きて物流が止まれば、日本の自動車産業も電機産業も、チップが手に入らずに全滅してしまう。 Rapidusは、「儲かるビジネス」である以前に、「日本の産業が生き残るための保険(セカンドソース)」としての役割を背負わされているんだ。だからこそ、国は引くに引けない状況なんだにゃ。
勝算はあるのか?技術と顧客(出口戦略)のリアル
「2nmなんて微細な世界、本当に作れるのか? 作ったとして誰が買うのか?」 ここが最大の疑問だにゃ。でも、Rapidusには無謀な賭けを成立させるための「切り札」と「顧客」がいる。
切り札①:IBM直伝「GAA」と「RUMS」モデル
これまでの半導体(FinFET構造)は、電流の通り道を3方向から制御していた。例えるなら、魚を焼くときに上と横から火を通す感じ。これだと、微細化が進むにつれて下側から電流が漏れ出してしまう(リーク電流)。
対して、RapidusがIBMから導入するGAA(Gate-All-Around)ナノシート構造は、電流の通り道を4方向すべてから囲い込む。魚を串に刺して、全方向から完璧に焼くようなものだにゃ。これにより、性能は45%向上し、消費電力は75%削減できるとされる。
さらに面白いのがRUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service)という製造方式だにゃ。
- TSMC(回転寿司): 「同じネタ(チップ)を大量に回す」バッチ処理。安くて早いが、仕様変更に弱い。
- Rapidus(高級カウンター): 「注文に合わせて一貫ずつ握る」枚葉式処理。コストは高いが、AIチップのような特殊な注文(開発)を超高速で回せる。
切り札②:誰が買う? トヨタ・デンソーの「SDV戦略」
「高いチップなんて誰が買うんだ?」と思うかもしれないが、実はトヨタ自動車とデンソーが喉から手が出るほど欲しがっている。 今の自動車は「走るスマホ(SDV:Software Defined Vehicle)」になりつつある。自動運転やAIアシスタント(Arene OS)を動かすには、現在の車載半導体(28-40nm)では脳みそが足りないし、電気を食いすぎてEVの航続距離が減ってしまう。 「低消費電力で超高性能な2nmチップ」は、次世代トヨタ車にとって絶対に確保しなければならない部品なんだ。
投資ぬこRapidusの大株主にトヨタとデンソーがいるのは、「投資」じゃなくて「調達」の意味合いが強いんだにゃ。彼らが最初の太客(アンカーテナント)になるはずだ。
切り札③:天才ジム・ケラーとAIベンチャー
AI半導体の天才、Jim Keller(ジム・ケラー)氏率いる米Tenstorrentとの提携もデカイ。彼はAppleやTeslaのチップを設計した伝説の男。彼がRapidusを使うと公言することで、シリコンバレーのAIスタートアップたちが「TSMC以外の選択肢」としてRapidusに注目し始めている。
正直、リスクは山積みだにゃ。「死の谷」と「トランプ砲」
さて、ここからが僕の本領発揮。ネガティブな現実もしっかり直視するにゃ。
1. 研究室の成功 ≠ 量産の成功(歩留まりの壁)
IBMで試作品が動いたとしても、それを北海道の工場で何百万個も、欠陥なく量産できるとは限らない。これを「歩留まり(Yield)」の問題という。 GAA構造はめちゃくちゃ複雑な工程が必要で、Samsungでさえ歩留まり向上に苦戦している。工場が稼働しても、不良品ばかりできて赤字を垂れ流す「死の谷」に落ちる可能性は十分にあるんだ。
2. 5兆円の資金ギャップとIPO
2nmの量産ラインを作るには、総額で5兆円が必要と言われている。政府支援や融資保証でなんとか食いつないでいるが、最終的にはIPO(株式上場)で市場から調達する必要がある。もし赤字続きなら上場できず、資金ショート……なんてシナリオもゼロじゃない。
3. 米国政治(トランプ・リスク)
もし米国で「アメリカ・ファースト」を掲げる政権が強まった場合、「なんで日本の企業にIBMの技術を渡すんだ!米国内で作れ!」という圧力がかかる可能性がある。地政学リスクへの備えが、逆に地政学リスクになるパラドックスだにゃ。
【投資家必見】Rapidusの成否に関わらず儲かる?「北海道バレー」関連銘柄
「じゃあRapidusは危険だから見送り?」 いや、そうじゃない。「Rapidus本体が成功するかどうか」と、「Rapidus関連で儲けること」は別問題だにゃ。 ゴールドラッシュで儲かったのは、金を掘った人じゃなくて、「ツルハシ」を売った人だった。Rapidusにおけるツルハシ銘柄を紹介するにゃ。
① 工場が建つだけで丸儲け。「製造装置(SPE)」メーカー
Rapidusが成功しようが失敗しようが、工場に入れる装置代金は支払われる。これが一番堅実。
- 東京エレクトロン (8035): 日本の半導体製造装置の王者。GAA構造に不可欠な成膜・エッチング装置でシェアを持つ。
- SCREENホールディングス (7735): 洗浄装置の世界トップ。ナノレベルの微細加工では「洗う」工程が命。ここがないと何も作れない。
- レーザーテック (6920): EUVマスク検査装置を独占。RapidusがEUVを使う限り、ここの装置は避けて通れない。
② 稼働後にジワジワ効いてくる。「素材・化学」メーカー
工場が動き出せば、毎日消費される材料が必要になる。
- 東京応化工業 (4186): 最先端のEUV用フォトレジスト(感光材)で世界シェアが高い。
- SUMCO (3436): シリコンウェハの世界大手。千歳市に工場を持っていて、Rapidusへの供給で物流コスト面でも有利。
③ 北海道の土地とインフラを握る企業
千歳市周辺は今、建設ラッシュでバブル状態。地域経済への波及効果は18兆円とも試算されている。
- 北洋銀行 (8524): 北海道最大の地銀。関連企業の設備投資や住宅ローン需要で、地銀の中でも成長期待が高い。
- 北海道電力 (9509): 半導体工場は電気をバカ食いする。泊原発の再稼働期待ともセットで注目。
- 日本通運 (NX HD 9147): 半導体専用の物流拠点を整備中。精密機器の輸送はここの独壇場だにゃ。
結論:僕らはどう動くべきか?
Rapidusプロジェクトは、日本の未来を賭けた大博打だ。 いち日本人としては全力で応援したい。でも、いち投資家としては「応援」と「資産運用」は分けるべきだにゃ。
投資ぬこの戦略メモ
- Rapidus本体(将来のIPO): まだ様子見。量産化のニュースと歩留まりの数字が出るまでは飛びつかない。
- 製造装置メーカー: 押し目で拾う。Rapidusだけでなく世界中の需要があるから、比較的安全。
- 北海道関連: ニュースで話題になった瞬間に吹き上がるから、短期〜中期で面白そう。
今後の重要マイルストーン(カレンダーに入れておくんだにゃ!)
- 2025年4月: 試作ライン(パイロットライン)稼働開始 ← 最初の関門!
- 2027年: 量産開始目標 ← ここまでに歩留まりが出せるか?
- 2031年頃: IPO(上場)目標
かつての僕のように、雰囲気だけで高値掴みして「お祈り投資」をするのは絶対にダメだにゃ。 リスク(5兆円の壁、技術的な死の谷)を理解した上で、それでも「日本の逆襲」に賭けてみたい人は、まずは「ツルハシ(装置・素材)」からポートフォリオに入れてみるのが賢い猫のやり方だと思うにゃ。
相場は逃げない。焦らず、自分の大事な資金(キャットフード代)を守りながら、チャンスを待つんだにゃ!
記事のポイントまとめ
- Rapidusは2027年に2nm量産を目指す国策プロジェクトだが、技術的・資金的ハードルは極めて高い。
- TSMCとまともに戦うのではなく、「AI向け特注チップ(RUMS)」と「トヨタ等のSDV需要」**で生き残りを図る。
- 投資家にとっての狙い目は、プロジェクトの成否に関わらず売上が立つ「製造装置」「素材」メーカー。
- 「国策だから安心」ではなく、「国策だからこそ政治や歩留まりニュースで乱高下する」と心得るべし。
よくある質問 (FAQ)
Q. Rapidusの株はどこで買えますか?
A. 現時点(2025年)では未上場なので買えません。将来的なIPO(新規上場)を目指していますが、まずは出資企業(トヨタ、デンソー、ソフトバンクなど)や、上述した関連銘柄に注目しましょう。
Q. なぜ今さら日本で半導体なのですか?
A. 経済的な理由以上に「安全保障」の理由が大きいです。台湾有事でチップが入らなくなると日本の産業が止まってしまうため、国内に「保険」としての工場を持つ必要があるのです。








